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慢性心不全|症状・検査/診断・治療

10秒サマリー

  • **定義:**心臓のポンプ機能不全により、うっ血や低拍出を来し、生活に支障が出る症候群。
  • **分類:**LVEF(左室駆出率)による「形態的分類」と、NYHAによる「主観的症状(QOL)分類」の両面で評価する。
  • **原因:**HFrEFは虚血や心筋症、HFpEFは高齢・高血圧・糖尿病などの多因子が背景。
  • **治療:**HFrEFでは「ファンタスティック・フォー」の早期併用、HFpEFではSGLT2阻害薬が治療の柱。

心不全の分類と主な原因

心不全の状態を把握するためには、心エコーによる「LVEF分類」と、患者の自覚症状による「NYHA分類」を組み合わせて評価することが不可欠である。

1. LVEFによる分類と原因疾患

分類 LVEF 主な原因疾患・背景
HFrEF 40%未満 虚血性心疾患(心筋梗塞後)、拡張型心筋症、弁膜症(重症AR/MR)、頻脈誘発性心筋症。
HFmrEF 40〜49% 虚血性心疾患が多い。HFrEFからの改善過程、またはHFpEFからの悪化過程。
HFpEF 50%以上 高齢者、女性、高血圧、糖尿病、肥満、心房細動。

2. NYHA(ニューヨーク心臓協会)心機能分類

身体活動によってどの程度症状(呼吸困難、疲労、動悸など)が出るかを評価する、重症度の世界標準指標である。

クラス 身体活動と症状の状態
I 心疾患はあるが、普通の身体活動では症状が出ない。
II 普通の身体活動で症状が出る(階段昇降や坂道など)。安静時には無症状。
III 普通以下の軽い身体活動(平地歩行など)でも症状が出る。安静時には無症状。
IV わずかな身体活動でも症状が出る。あるいは安静時でも症状がある。

心不全の検査:診断と評価のプロセス

診断の基本は「病歴」「身体所見」「バイオマーカー」の組み合わせである。

1. 身体所見・バイオマーカー

  • **身体所見:**頸静脈怒張、下腿浮腫、肺湿性ラ音、III音の聴取。これらは「うっ血」の強力な指標となる。
  • 血液検査:
    • **BNP / NT-proBNP:**心室壁への負荷を反映。診断・予後予測に必須。
    • **トロポニン:**微小心筋障害の有無(虚血や心筋炎の除外)。
    • **腎機能・電解質:**治療薬(利尿薬やMRA)の選択に直結する。

BNP/NT-proBNPの目安は以下の通り。

  • 心不全の可能性低い:BNP<40pg/mL、NT-proBNP<125
  • 心不全の可能性高い:BNP>100pg/mL、NT-proBNP>400

※NT-proBNPは生化学スピッツで採取しやすいが、腎機能悪化時には上昇しやすい点に注意する。

2. 画像・生理学的検査

  • **胸部X線:**心拡大(CTR > 50%)、肺うっ血、胸水の確認。
  • **心電図:**不整脈(AF)、陳旧性心筋梗塞、左室肥大の有無を確認。
  • **心エコー(最重要):**LVEFの計測、弁膜症の有無、壁運動異常、右心系負荷、下大静脈(IVC)の虚脱を評価。

HFrEFに対する詳細な内服治療戦略

2025年最新指針では、以下の4剤(Fantastic Four)を早期から「同時並行」で導入し、早期に予後改善効果を最大化させることが推奨される。

1. ファンタスティック・フォーの処方詳細

  1. ARNI(エンレスト):
    • **開始:**50mg 1日2回(重症例や低血圧例では25mg 2回から検討)。
    • **目標:**200mg 1日2回。
    • **注意:**ACE阻害薬からは36時間の休薬期間が必要。
  2. β遮断薬(メインテート、アーチスト):
    • **開始:**メインテート 0.625mg 1日1回。
    • **増量:**2〜4週ごとに倍増。最大 5.0mgを目指す(心不全症状が安定していることが条件)。
  3. MRA(スピロノラクトン、エプレレノン):
    • **処方:**アルダクトンA 25mg 1日1回。
    • **注意:**K > 5.0 または eGFR < 30 では投与を控える。
  4. SGLT2阻害薬(フォシーガ、ジャディアンス):
    • **処方:**フォシーガ 10mg または ジャディアンス 10mg 1日1回。
    • **メリット:**血圧や腎機能への影響が軽微で、他剤よりも早期導入が容易。

2. 症状緩和のための治療

  • **利尿薬:**うっ血(浮腫・呼吸苦)があれば必須。
    • アゾセミド(ダイアート)30〜60mg 1日1回(作用時間が長く、頻尿ストレスが少ない)。
    • トルバプタン(サムスカ):低Na血症がある場合やループ利尿薬抵抗性の場合に追加。3.75mgから開始し、血清Na濃度を厳密にモニターする。
  • **イバブラジン(コララン):**β遮断薬最大量でも心拍数が75回/分以上の洞調律例に使用。

HFpEF(LVEF≧50%)の治療

うっ血による自覚症状改善目的に利尿薬(アゾセミド等)を投与する。ACE阻害薬/ARB、β遮断薬に予後改善効果が示唆されており、MRAも心不全入院を有意に低下させる。

HFmrEF(40%≦LVEF<50%)の治療

HFrEFとHFpEFの中間病態であり、様々な背景疾患が原因となりうるため、HFrEF/HFpEFの治療薬を参考に投与する。

resi Dr.の眼(Pitfalls)

  • **血圧管理:**130/80 mmHg未満を目指す。
  • **「ステップアップ」から「並行導入」へ:**かつては1剤ずつ時間をかけて増量していたが、現在は「弱火(少量)で良いから4剤すべてを早く並べる」ことが患者の生命予後を最大化させることがわかっている。
  • **血圧が低い時の優先順位:**血圧が低くARNIやβ遮断薬が使いにくい時でも、SGLT2阻害薬は血圧への影響が少ないため導入しやすい。
  • **トルバプタンの使いどころ:**ループ利尿薬増量でも浮腫が取れない場合、早期にトルバプタン(サムスカ)を追加する。ただし、急激な血清Na上昇を避けるため、原則として入院下での導入が望ましい。

予後・患者説明のポイント

「心不全は『治る』ものではなく、薬を調整しながら『うまく付き合う』病気です」と伝え、自己判断での内服中止が再入院の最大の原因であることを強調する。毎日決まった時間に体重を測り、1週間で2kg以上の増加があればすぐに受診するよう指導する。

参考文献

  • JCS/JHFS 2025年改訂版 心不全診療ガイドライン
  • 2021年 ESC心不全ガイドライン

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